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冬場の快適な湿度について -加湿は本当に必要か?-

冬場になると気温が低くなるため日本全体において湿度が低下します。このため、冬場になると乾燥を感じる人が増えてきます。
そのため、冬場になると加湿を行うと言った習慣がある家庭も多いでしょう。

高断熱住宅になると更にこの傾向は増加します。
これは、高断熱住宅になると単純に室温が上がるためです。
そんな高断熱住宅における快適な湿度について、ここでは検討します。

高断熱住宅で乾燥が酷くなる理由

主な理由として以下が挙げられます。

  1. 室温が向上するため
  2. 加湿を伴う暖房器具を使用しないため

室温が向上すると乾燥する理由

1は以下のグラフを見るとよく分かります。

大阪における1年間の相対湿度

このグラフは気象庁で得られるデータを利用して作成した、2020年の大阪における1年間の相対湿度です。
外の空気をそのまま家の中に取り入れて、23℃まで暖めた場合に湿度が何パーセントになるかと言う計算をしています。

これを見ると12月~4月頃までは、相対湿度が30%弱程度になっていることが分かります。これは、外の空気がそもそも乾燥しているため、家の中に取り入れてそのまま温度を上げると、湿度が低い状態のままとなることを意味しています。

高断熱住宅では、常に室温が高い状態に維持されます。
このため、外気がそのまま住宅内に取り入れられると、相対湿度が低い状態となってしまうのです。

加湿を伴う暖房機器の利用が少ないとは?

更に2の理由として高断熱住宅では、加湿を伴う暖房機器の利用が少なくなります。

これは、どういうことかと言うと「灯油ストーブ」や「ガスファンヒーター」などの利用が控えられるからです。これらの暖房機器は、灯油やガスの燃焼と同時に大量の二酸化炭素と水蒸気を発生させます。乾燥の防止のためには、水蒸気があると助かるのですが、二酸化炭素が大量に発生すると体にとって良くないことが起こります。

このため、高断熱住宅では一般的にエアコンの利用が多くなります
エアコンは省エネで光熱費が安いと言うメリットがある反面、上記のような燃焼型の暖房機器とは違い、エアコン単体で湿気を発生させることが苦手です。(それでも、ダイキン工業の「うるさら」と言う機種では加湿がかのうです。しかし、加湿能力については燃焼型機器とは比べ物にならない位少なくなります。)

このため、家の中での加湿がかなり減ることになるのです。

因みに、人間は常にある一定の汗が発生していて実質の加湿を行っているのですが、これだけでは不足します。

乾燥すると何が悪いのか?

湿度が不足して乾燥気味になったとして、体にとって何が悪いのでしょうか?

人間が感じる乾燥感について

まず真っ先に思いつくのが肌への影響です。しかし、残念ながら現段階において、人間がどのようにして乾燥感や湿潤感を感じているのかはまだよく分かっていません

※人間には暑さや寒さを直接感知する感知センサーはあるのですが、湿度を感知するセンサーは無く、どのようにして感じているのかはまだ不明となっています。<参考「脳と体温」>
因みにゴキブリには、湿度を感じるセンサーが体表に備わっています。

明らかに肌が割れるなどの肌荒れやアトピー性皮膚炎の悪化等があれば加湿すべきことは明白なのですが、これも人による差がかなり大きくアメリカの「ANSI/ASHRAE Standard」と言う基準を出している機関では、証拠が不十分として推奨の屋内相対湿度については、乾燥側の基準を設けていません
(現段階では、神戸大学の高田暁教授が乾燥感についての研究をされています。)

ですので、喉が痛いとか皮膚が乾燥するなどの感覚がある場合は加湿が必要ですが、そう言った自覚がない場合は、必ず必要と言う訳ではありません

乾燥とインフルエンザウィルスとの関係

乾燥することによって、もう一つ懸念されるのはウィルスの生存率が上がる事です。これは、元々ウィルスが居なければ何も問題は無いのですが、もしインフルエンザウィルスがその場所に存在すると、乾燥することによってウィルスの生存率が上がってしまうのです。これは、医師の庄司眞と言う方が疫学調査を実施されて分かったことです。(参考「季節性インフルエンザの流行と絶対湿度」)

庄司医師らが調べた結果を表にまとめると

容積絶対湿度 (g/m3)6時間後の生存率
17生存無し
115%が存在
720%が存在
535~66%が存在
インフルエンザウィルスの6時間後生存率

そして、絶対湿度は11(g/m3)以下になると流行が始まり、17(g/m3)以上で流行が終わるとしています。

とはいえ、この絶対湿度の目安はかなりシビアにみています。
実際の大阪における絶対湿度の色々な年の容積絶対湿度の推移を見てみましょう。

大阪における月別の絶対湿度の推移

このように見るとインフルエンザの流行が始まるのは、10月頃で終わるのは6月を過ぎてからという事になります。つまり、かなり余裕をもった指標となっているようです。
しかし、仮にウィルスの生存確率が高くなってくる容積絶対湿度7(g/m3)を基準(グラフの赤点線)にすると、11月半ば~4月頃までが範囲となります。
東北地方ではこの容積絶対湿度7(g/m3)を目安として、これを下回る時期には警告を出しています

この期間は、外の空気をそのまま取り入れただけではウィルスの生存確率が高くなるという事になります。

海岸沿いの建物外部における容積絶対湿度

つづいて、2022年の1月~2月にかけて計測した実際のG2性能の建物の外での計測結果です。
オレンジ色が気象庁の大阪市におけるデータを元に容積絶対湿度を計算したもので、青色が実際に計測した値から計算したものです。計測した建物は、海沿いに建っていますが、大阪市内と殆ど湿度状況は変わりません。

海沿いですら、1月や2月は7(g/m3)を常に下回っていることが分かります。

まとめ

以上を纏めると、以下の2点が挙げられます。

  • 自身に乾燥が原因の自覚症状がある場合
  • インフルエンザウィルスの未然の予防を行いたい

これらの場合は、加湿することがお勧めと言えます。
しかし、上記以外の場合それほど加湿が必要とは言えません。
つづいて、その理由についてです。

冬場の快適な部屋の湿度は?

冬場は外の乾燥によって、屋内も乾燥しやすいです。
しかし、だからといって快適なのかそうでないのかは別となります。

何故そうなのかを見てみましょう。

湿度を50%にすることは、快適なのか?

一般的に湿度は50%位が望ましいと言われています。
下記は、2022年に計測したG2高断熱住宅の建物です。

望ましいと言われている50%は下回っていることが分かります。

G2高断熱住宅の実測相対湿度

次に下のグラフは、2022年の1月~2月にG2性能の高断熱住宅のLDKの気温(室温)と湿度を計測し、それを基に不快指数DIと言うものを算出した結果です。(不快指数の計算は非常にややこしいので、また別の機会に説明します。)

この不快指数は、特に屋内において快適かそうでないかを判断する指標です。(他にOTやPMVと言うものがありますが、一般的にこういった指標は簡単に計測することが困難です。このため、ここでは不快指数を指標とします。)

G2高断熱住宅における不快指数

青色が実際に計測した値から算出した不快指数で、オレンジ色が仮に同じ温度で一般的に良いとされている湿度50%とした場合の不快指数です。

そして不快指数には以下の目安があります。

不快指数体感
~50とても寒い
50~55寒い
55~60少し寒い
60~65寒くもなく暑くもない
65~70快適に感じる
70~75不快感を持つ人が出てくる
75~80半数以上が不快に感じる
80~85全員が不快に感じる
85~とても暑い

70を超えると不快に思う人が出てくるのです。
そうして改めて不快指数のグラフをみてみると、仮に加湿して50%を超えると不快指数が70を超える時間帯が出てくるのです。

つまり、快適と言われている50%ですが、むやみに加湿を行うと蒸し暑さや不快感を感じる人も出てくるのです。(感じ方には個人差があります)

本当に最適な湿度とは?

上記の結果から、不快指数が65~68の範囲に収まる適正な湿度を算出してみます。

相対湿度[%]
30 35 40 45 50 55 60
室温[℃]
20.0 61 61 62 62 63 63 63
20.5 62 62 62 63 63 64 64
21.0 62 63 63 63 64 64 65
21.5 63 63 63 64 64 65 65
22.0 63 64 64 64 65 65 66
22.5 64 64 65 65 65 66 66
23.0 64 65 65 66 66 66 67
23.5 65 65 66 66 67 67 68
24.0 66 66 66 67 67 68 68
24.5 66 66 67 67 68 68 69
25.0 67 67 67 68 68 69 69
25.5 67 68 68 68 69 69 70

これを見ると、23.5℃を上回ると30~60%の湿度幅でも快適と言えそうです。
しかし、温度がこれを下回ると多少の加湿をした方が良さそうです。

ただし、湿度は70%を超えるとカビの発生リスクが出てきます

再度、G2性能の建物の室温を見てみます。

G2高断熱住宅のLDK室温

上のグラフは、2022年に計測したG2高断熱住宅のLDK室温です。
グラフの赤点線が23.5℃を示しています。殆どの時間帯で23.5℃を上回っていることが分かります。

つまり、快適かどうかを判断する場合、この建物に限ってはあまり加湿の必要は無さそうです。

実際、この住宅に住んでいるご家族は加湿を殆ど行わなかったそうで、乾燥感を感じる事はほぼ無かったという事です。

まとめ

以上からG2高断熱住宅においては、以下のことが言えそうです。

  • 23.5℃を上回る場合、本人が乾燥感や喉の痛みなどの不具合を感じていない場合は加湿は必要ない。G2性能の住宅はこれに当てはまる。
  • 23.5℃以下の場合、多少は加湿があるとより快適になる。ただし、70%を超えるとカビが繁殖するリスクが発生する。
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